オフィスや店舗、工場など、多くの人が利用する建物では、火災が発生した際に人命や財産を守るための防火対策が欠かせません。そこで重要な役割を担うのが「防火管理者」です。
防火管理者は、消防法に基づいて防火管理に関する業務を行う責任者であり、一定の条件に該当する建物では選任が必要です。しかし、「具体的にどのような仕事をするのか」「自社のオフィスにも必要なのか」「甲種と乙種は何が違うのか」と疑問を持っている方も多いのではないでしょうか。
また、ハイブリッドワークやフリーアドレスの普及によって、従業員が毎日同じ場所で働くとは限らなくなっています。これからの企業防災では、従来の防火対策だけでなく、災害発生時に「誰が・どこにいるのか」を把握できる仕組みを整えることも重要です。
本記事では、防火管理者とは何か、仕事内容や選任基準、資格の取得方法、甲種・乙種の違いをわかりやすく解説します。さらに、位置情報を活用したオフィスの防災対策についても紹介します。

防火管理者とは?役割や必要性をわかりやすく解説

防火管理者とは、建物や施設において火災の発生を予防し、万が一火災が発生した際の被害を最小限に抑えるため、防火管理に必要な業務を行う責任者です。
一定規模以上の建物では消防法に基づいて選任する必要があります。単に資格を取得して名前を届け出ればよいものではなく、日常的な火災予防から避難訓練などの緊急時への備えまで、幅広い役割を担います。
防火管理者とは消防法に基づく防火管理の責任者
防火管理者は、消防法第8条に基づいて選任される、防火管理上必要な業務を行う責任者です。
消防法では、一定の防火対象物について、その管理について権原を有する者が、資格を有する者の中から防火管理者を選任し、防火管理上必要な業務を行わせることを定めています。
防火管理者の目的は、火災が発生する可能性をできるだけ低くするとともに、万が一火災が発生した場合でも、人命や財産への被害を最小限に抑えられる環境を整えることです。
そのため、防火管理者は「火災が起きたときに対応する人」というだけではありません。日頃から建物内の防火体制を確認し、消防計画を作成したり、従業員への教育や訓練を行ったりするなど、火災を未然に防ぐための取り組みも重要な役割です。
企業では総務部門や施設管理部門などの担当者が防火管理者となるケースもあります。建物の安全を継続的に維持するための重要な存在といえるでしょう。
防火管理者が必要とされる理由
火災が発生すると、炎や煙が短時間で広がり、従業員や施設利用者が安全に避難できなくなる可能性があります。そのような状況で被害を抑えるためには、火災が発生してから対応を考えるのではなく、平常時から役割分担や避難方法などを決めておくことが重要です。
例えば、避難経路に荷物が置かれていたり、従業員が消火器の位置を知らなかったりすれば、緊急時の行動に支障をきたす可能性があります。また、避難訓練を長期間実施していなければ、いざというときに誰が通報し、誰が避難誘導を行うのか分からないという事態にもなりかねません。
こうしたリスクを減らすため、防火管理者が中心となって日常的な点検や教育、訓練などを行います。
防火管理者を選任すること自体を目的にするのではなく、実際の火災を想定した防火管理体制を継続して構築することが大切です。
防火管理者と防災管理者・防火責任者の違い
防火管理者と混同されやすいものに「防災管理者」があります。
防火管理者が主に火災による被害の防止・軽減を目的としているのに対して、防災管理者は、大規模な地震など火災以外の災害による被害を軽減するための防災管理を担います。大規模な建物など一定の条件に該当する場合には、防災管理者の選任も必要です。
また、職場によっては「防火責任者」という名称が使われることもありますが、消防法に基づいて選任される「防火管理者」とは位置づけが異なります。防火責任者は、消防計画などに基づき、各部署やフロアなどで火気や避難経路の確認を担当する役割として設けられる場合があります。
それぞれの役割を混同せず、自社の建物や事業所でどのような防火・防災体制が必要なのかを確認することが重要です。
防火管理者の仕事内容とは?主な役割を解説

防火管理者の仕事は、火災発生時の対応だけではありません。消防計画の作成や避難訓練、消防設備の管理、従業員への教育など、日頃から火災に備えるための幅広い業務を担当します。ここからは代表的な仕事内容を紹介します。
消防計画の作成・届出と防火管理体制の整備
防火管理者の重要な仕事の一つが「消防計画」の作成です。
消防計画とは、建物や事業所における火災予防や、火災発生時の対応について定めた計画です。建物の利用状況などに応じて、日常的な防火管理から緊急時の対応までを具体的に定めます。
消防計画を作成した後は、管轄する消防署へ必要な届出を行い、その内容に沿って防火管理を実施していきます。
ただし、一度消防計画を作成したからといって、それで防火管理が完了するわけではありません。オフィスのレイアウト変更や組織体制の変更、従業員数の増減などによって、実際の職場環境と消防計画の内容にずれが生じる可能性があります。
そのため、職場環境の変化に合わせて防火管理体制を見直し、実態に即した状態を維持することが重要です。
消火・通報・避難訓練の実施と従業員への防火教育
防火管理者は、消防計画に基づいて消火・通報・避難などの訓練を実施します。
火災が発生した際には、消防への通報、初期消火、従業員や来訪者の避難誘導など、短時間で複数の対応が求められます。事前に訓練をしていなければ、役割分担が曖昧になり、避難や通報が遅れてしまう可能性があります。
そのため、実際の火災を想定して「誰が消防へ通報するのか」「誰が避難を誘導するのか」「どの経路から避難するのか」といった点を確認しておくことが大切です。
さらに、従業員への防火教育も欠かせません。新入社員や異動者を含め、避難経路や非常口、消火器の位置などを周知しておくことで、災害時の迅速な行動につながります。
訓練を単なる行事として終わらせず、実施後に課題を洗い出して改善を重ねることが、実効性の高い防火管理につながります。
消火設備・避難経路・火気使用場所などの点検と管理
火災を未然に防ぎ、発生時の被害を抑えるためには、日常的な点検と管理も重要です。
例えば、消火器や消防用設備などが適切に管理されているか、避難経路や非常口を荷物が塞いでいないか、防火扉の周辺に障害物が置かれていないかなどを確認します。
給湯室や厨房、作業場など、火気を使用する場所がある場合には、火気の使用や取り扱いについて適切に監督する必要があります。
オフィスでは大きな火を扱う機会が少ないため、防火に対する意識が薄れてしまうこともあります。しかし、電気機器やコンセントなど、身近なところにも火災につながる要因は存在します。
防火管理者を中心に定期的な確認を行い、危険な状態を発見した場合には早めに改善することが重要です。

防火管理者の選任が必要な建物と資格の取得方法

防火管理者は、すべての建物で選任が必要なわけではありません。建物の用途や収容人員、規模などによって選任の要否や必要な資格が異なります。
自社が対象となるか確認するとともに、甲種・乙種の違いについても理解しておきましょう。
防火管理者の選任が必要になる建物・収容人数の基準
防火管理者の選任が必要かどうかを判断する際には、建物の用途や収容人員などを確認します。
例えば、劇場、飲食店、店舗、ホテル、病院など、不特定多数の人が出入りする「特定用途の防火対象物」では、原則として建物全体の収容人員が30人以上の場合に防火管理者が必要です。
一方、共同住宅、学校、工場、倉庫、事務所などの「非特定用途の防火対象物」では、原則として収容人員50人以上が一つの基準となります。
また、火災発生時に自力での避難が著しく困難な人が入所する一定の社会福祉施設などを含む場合には、収容人員10人以上で選任が必要となります。
そのため、一般的なオフィスだから防火管理者は必要ないとは限りません。テナントを含めた建物の状況などによって判断が異なる場合もあるため、自社で判断が難しい場合は管轄の消防署へ確認すると安心です。
甲種防火管理者と乙種防火管理者の違い
防火管理者の資格には、大きく「甲種」と「乙種」の2種類があります。
甲種防火管理者は、比較的大規模な防火対象物を含めて防火管理者として選任できる資格です。一方、乙種防火管理者は、比較的小規模な防火対象物など、選任できる範囲が限定されています。
例えば、特定用途の防火対象物では延べ面積300平方メートル以上、非特定用途では延べ面積500平方メートル以上など、一定規模以上の場合には甲種防火管理者が必要になります。
つまり、「会社の従業員数が何人だから甲種・乙種」と単純に判断するのではなく、防火対象物の用途、収容人員、延べ面積などを踏まえて確認する必要があります。
甲種の資格を取得していれば乙種防火対象物の防火管理者としても選任できるため、将来的な異動や担当施設の変更などを考慮して資格を選ぶことも一つの方法です。
防火管理者の資格を取得する方法と講習内容
防火管理者として選任されるためには、防火管理業務を適切に遂行できる管理的・監督的な地位にあり、防火管理に必要な知識や技能を有していることが求められます。
一般的には、消防機関や一般財団法人日本防火・防災協会などが実施する防火管理講習を受講し、所定の課程を修了することで資格を取得します。
講習では、防火管理の制度や消防計画、火災予防、消防設備、訓練など、防火管理者として必要となる知識を学びます。甲種と乙種では講習内容や講習時間などが異なるため、自社で必要となる資格を確認したうえで受講することが大切です。
なお、資格を取得しただけでは自動的にその建物の防火管理者になるわけではありません。実際に防火管理者として選任し、必要な届出を行う必要があります。
建物の用途や条件によって必要な手続きが異なる可能性があるため、具体的な選任や届出については管轄の消防署などで最新情報を確認しましょう。
防火管理者とあわせて考えたいオフィスの防災対策

防火管理者を選任し、消防計画や避難訓練を整備することは重要ですが、企業の防災対策はそれだけでは十分とは限りません。特に働く場所が多様化した現在では、災害時の「人の所在」を把握し、迅速に安全確認できる体制も求められています。
災害時に「誰が・どこにいるか」を把握できる体制をつくる
ハイブリッドワークやフリーアドレスが普及したオフィスでは、従業員が毎日同じ場所にいるとは限りません。
従来の固定席中心のオフィスであれば、座席表などから出社している従業員の居場所をある程度推測できました。しかし、出社日や勤務場所を自由に選択できる環境では、「今日は誰が出社しているのか」「どのフロアにいるのか」を管理者がリアルタイムで把握することが難しくなります。
平常時であれば大きな問題にならなくても、地震や火災などが発生すると状況は変わります。
避難した従業員を確認しても、そもそもその日に誰が出社していたのか分からなければ、「全員が避難できたのか」「建物内に取り残されている人はいないか」を迅速に判断することが困難です。
これからのオフィス防災では、避難経路や防災備品などの「設備」だけでなく、災害発生時の人の所在を把握する「情報」の整備も重要になります。
防火管理者だけに頼らず組織全体で防災体制を構築する
防火管理者は企業の防火対策において重要な存在ですが、一人ですべての災害対応を行うことは現実的ではありません。
災害発生時には、通報、初期消火、避難誘導、負傷者への対応、従業員の安否確認など、さまざまな対応を同時に進める必要があります。
そのため、防火管理者を中心としながら、各部署やフロアの担当者、総務部門、施設管理部門などが連携し、組織全体で防火・防災に取り組む体制を構築することが大切です。
また、避難訓練を実施する際も、「避難できたから終了」とするのではなく、災害発生から避難完了までの流れを確認することが重要です。
例えば、出社者を正確に把握できたか、逃げ遅れている人を確認できたか、避難場所での点呼に時間がかからなかったかなど、実際の災害を想定して課題を検証します。
そこで見つかった課題を消防計画や防災マニュアル、次回の訓練へ反映することで、防災体制を継続的に改善できます。
Beacapp Hereの地震速報連携機能で災害時の初動対応を支援する
災害時の「誰が・どこにいるのか」という課題への対策として活用できるのが、屋内位置情報サービス「Beacapp Here」です。
Beacapp Hereには、地震速報と出社している従業員の位置情報を連携する「地震速報連携機能」があります。
この機能では、震度4以上の地震の発生が確認された際、地震発生予測地域内の拠点に出社している従業員のリストを、拠点管理者と全社管理者へメールで自動送信します。
出社状況はBeacapp Hereからリアルタイムに取得されるため、災害が発生した地域の拠点に「今、誰がいるのか」を速やかに把握し、安否確認や避難に関する初動判断につなげられます。
地震の有無は60秒間隔で確認されており、地震速報が公表されてからおよそ1〜2分でメールを配信する仕組みです。
実際に約1,000名規模のBeacapp Here導入企業で実施した避難訓練では、テスト信号をきっかけに出社者リストが管理者へ送信されることを確認しました。また、Beacapp Hereの検知機能を利用して、逃げ遅れた人の特定や避難場所における安否確認の自動化についても検証しています。
防火管理者による消防計画や避難訓練といった「人・組織による対策」に、位置情報を活用した「デジタルによる対策」を組み合わせることで、より実効性の高い防災体制を構築しやすくなります。
特にハイブリッドワークやフリーアドレスを導入している企業では、平常時から従業員の所在を可視化できる仕組みが、災害時の安全確保にも役立ちます。
非常時だけ利用する仕組みではなく、普段のオフィス運用で利用しているシステムを防災にも活用することで、「平時」と「有事」を切り離さない新しいオフィス防災につなげることができます。

まとめ
防火管理者とは、消防法に基づいて建物や施設の防火管理を担う重要な責任者です。
消防計画の作成や届出、消火・通報・避難訓練、消防設備や避難経路の管理、火気の取り扱いに関する監督など、その仕事内容は多岐にわたります。
防火管理者の選任が必要かどうかは、建物の用途や収容人員などによって異なります。また、必要となる資格も建物の規模などによって甲種・乙種に分かれるため、自社のオフィスや施設がどの条件に該当するのかを確認しておくことが大切です。
そして、ハイブリッドワークやフリーアドレスなど働き方が多様化した現在では、従来の防火管理に加えて、災害発生時に「誰が・どこにいるのか」を把握できる体制づくりも重要になっています。
防火管理者だけに防災を任せるのではなく、従業員への防災教育や避難訓練、設備の整備、デジタル技術による所在把握などを組み合わせ、組織全体で防災に取り組むことが重要です。
Beacapp Hereのような位置情報サービスを活用すれば、平常時の在席・所在把握だけでなく、地震発生時の出社者把握や初動対応にも位置情報を活用できます。
「誰が出社しているか分からない」という働き方の変化に合わせ、防火管理者を中心とした従来の防火対策とデジタル技術を組み合わせながら、より実効性の高いオフィス防災体制を構築していきましょう。