地震はいつ、どこで起きても不思議ではありません。そんなもしもの時に備えて、職場や施設で行う「避難訓練」は、命を守る行動を身につけるために欠かせない取り組みです。ただし、なんとなく毎年実施するだけでは効果は半減してしまいます。
本記事では、地震を想定した避難訓練の基本から、シナリオの作り方、マニュアル整備、振り返りの工夫まで、現場で活用できる実践的なポイントをわかりやすく解説します。
地震を想定した避難訓練とは?目的と基本の流れ

地震は事前の予測が難しく、突然起こるものです。だからこそ、緊急時に「迷わず、安全な行動を取れるかどうか」が生死を分ける場面もあります。地震を想定した避難訓練は、そうした状況に備えるための重要なステップです。ただ実施するだけでなく、目的や流れを正しく理解し、定期的に見直すことで、訓練の質は大きく変わります。
ここでは、地震避難訓練の目的や基本的な実施ステップ、ありがちな課題について解説します。
地震発生時に迷わず行動できるようにする「訓練の目的」
地震避難訓練の最大の目的は、災害時に「とっさに正しく動ける力」を養うことです。
実際の地震ではパニックになり、判断が遅れたり、安全な行動ができなかったりするケースが多くあります。避難訓練を繰り返すことで、体が覚えるように自然と動けるようになることが理想です。さらに、組織として連携しながら対応するためには、個人だけでなく「チームでの役割」や「情報の伝達手順」も確認しておく必要があります。
地震が起きたときの基本行動(安全確保→通報→避難→点呼)
地震発生時の基本的な対応は、大きく分けて4ステップに整理できます。
まずは身の安全を守ること。揺れている最中は机の下に隠れる、頭を守るなどの初動行動が必要です。次に、揺れが収まったら火の元や周囲の安全確認を行い、状況を把握して通報・連絡を行います。その後、あらかじめ決められた避難経路を使って屋外など安全な場所へ移動し、最後に全員の無事を確認するための点呼を行うのが一連の流れです。
避難訓練で起こりやすい課題(判断の遅れ・連携不足)
実際に訓練を行ってみると、「誰が指示を出すのか曖昧だった」「通報や点呼のタイミングがズレた」「避難ルートが混雑した」などの課題が見えてくることがあります。こうしたトラブルの多くは、「想定が甘い」「ルールが共有されていない」ことが原因です。
また、時間が経つと訓練の記憶が薄れ、形だけの実施になってしまうケースも少なくありません。だからこそ、目的を明確にし、訓練の質を見直す姿勢が大切です。
効果を高める“地震発生を想定した避難訓練シナリオ”の作り方

避難訓練をより実践的に、現場の防災力向上に結びつけるためには、事前に「どのような地震が、どんなタイミングで起こるか」を具体的に想定し、リアルな行動計画(=シナリオ)を作成することが重要です。
シナリオは、訓練当日の進行台本のようなものです。参加者が流れに沿って自然に行動できるようになることで、緊急時の初動スピードと連携力を大きく高めることができます。
揺れの強さ・時間・場所を設定してリアルに想定する
シナリオ作成の第一歩は、「どんな地震が起きた想定なのか」を具体的に決めることです。
たとえば、「平日の午前9時半、震度6強の地震が発生」「地下1階に複数人が勤務中」など、時間帯や場所、状況まで落とし込むと現実味が増します。揺れの継続時間や設備の被害状況なども設定すれば、参加者がより本番を意識した行動を取りやすくなり、訓練の効果が高まります。
避難経路・役割・連絡手順をあらかじめ整理する
リアルな訓練を実現するには、事前準備が欠かせません。避難経路はもちろん、誰が指示を出すのか、どこへ連絡するのかといった体制を整理しておく必要があります。特に多拠点のオフィスや、複数のフロアがある建物では、フロアごとの避難ルートや集合場所を明確にすることが重要です。
また、初めて参加する人でもスムーズに動けるよう、事前に「役割分担表」や「簡易マップ」などを配布しておくと安心です。
地震発生〜避難完了までのシナリオ例(オフィス/介護施設)
たとえばオフィスの場合、「9:30 地震発生 → 9:32 安全確保 → 9:35 避難誘導開始 → 9:40 点呼完了」といったタイムラインを作成します。
一方で介護施設の場合は、「要配慮者のサポート」に重点を置いた構成が必要です。揺れの中で車いす利用者をどう守るか、避難所での受け入れ体制はどうかといった点まで含めると、実際の災害時にも即応できる訓練になります。
定期訓練だけでなく“抜き打ち訓練”が効果的な理由
「予定されている訓練」だけでは、参加者の緊張感が薄れ、本番での対応力が育ちにくくなります。
そこでおすすめなのが、あえて事前告知をしない“抜き打ち訓練”の実施です。実際の地震はいつ起こるかわからないものです。あらかじめ流れを知らない状況で動いてみることで、判断力や連携の弱点を洗い出すことができます。
また、訓練後には必ず振り返りを行い、課題を改善につなげましょう。

地震を想定した避難訓練マニュアルの作り方

避難訓練の実施にあたり、シナリオが“当日の進行台本”だとすれば、マニュアルは“誰が何をすべきか”を定めた行動のガイドラインです。マニュアルがしっかり整備されていれば、非常時に迷うことなく役割を果たし、円滑な避難につながります。
また、訓練をきっかけに作成・更新することで、現場ごとの状況に即した実用的な内容へと進化させていくことができます。
マニュアルに入れるべき基本要素(初動・避難・連絡)
マニュアルに必ず盛り込むべき項目は、「初動対応」「避難行動」「情報連絡」の3点です。
初動対応:揺れを感じた際に取るべき行動(姿勢の確保・火の元の確認など)を明記
避難行動:経路・誘導方法・安全確認の手順などを整理し、全員が無理なく移動できる導線を設計
連絡:誰がどこへ通報・報告するかを明確にし、情報の混乱を防ぐ体制を整える
これらを明文化することで、災害時にも迷わず行動できる“共通認識”が職場や施設全体に広がります。
部署・立場・能力に応じた役割を設定する
地震時の対応は一律ではなく、部署や役職、身体的な条件によっても適した役割が異なります。
たとえば管理職には全体指揮を、総務には点呼や連絡業務を、現場リーダーには避難誘導を任せるなど、組織構造に沿った役割分担が必要です。また、妊娠中の方や要配慮者には過度な負担がかからないよう、配慮された行動計画も盛り込みましょう。マニュアルにはそれぞれの「役割ごとの行動指針」を明記すると、実際の場面でも動きやすくなります。
見やすく伝わるマニュアル作成のポイント(図・動線図)
マニュアルは、文章で情報を詰め込むだけでは伝わりにくく、読み手が実際に行動するイメージを持ちづらくなります。避難ルートは平面図と矢印で表現する、連絡手順はフローチャートにするなど、視覚的に理解できる工夫が効果的です。
さらに、訓練中に持ち歩けるようA4サイズで印刷・ラミネートしたり、スマホで閲覧できるようデジタル化したりすることで、マニュアルの“使われる確率”が格段に上がります。
訓練後の振り返り:感想から“改善点”を見つける方法

避難訓練は「やったら終わり」ではなく、実施後の振り返りまでがワンセットです。訓練を通じてどんな動きができたか、どこに改善の余地があるかを整理することで、次回以降の防災対策の質が大きく変わります。
特に地震を想定した訓練では、状況判断や連携の難しさが浮き彫りになりやすいため、参加者の感想や行動記録をもとに「見える振り返り」を行うことが重要です。
「できたこと・できなかったこと」を行動ベースで振り返る
訓練後の振り返りでは、「スムーズにできたこと」と「うまくいかなかったこと」を、できるだけ行動ベースで整理するのがポイントです。
たとえば、「避難開始の号令が聞こえづらかった」「集合場所で誘導が混乱した」など、実際の行動に着目して改善点を明らかにします。感想レベルで終わらせず、「なぜそうなったのか?」まで掘り下げることで、次に活かせる具体的な改善策が見えてきます。
よくある改善点(点呼の時間・避難経路の混雑・情報の遅れ)
多くの現場で共通して挙がる課題として、以下のようなポイントがあります。
- 点呼に時間がかかりすぎる/重複して確認してしまう
- 避難経路が一部に集中して渋滞・混雑が発生する
- 誰が報告・連絡をするか不明瞭で、情報伝達が遅れる
これらは、ルールが曖昧だったり、役割がうまく共有されていなかったりすることで起こります。改善には、「ルートの再設定」「点呼係の明確化」「連絡フローの見直し」といった対応が効果的です。
改善につなげる振り返りシートの作り方
振り返りの効果を高めるためには、「記憶」ではなく「記録」に残すことが大切です。
チェックリスト形式の振り返りシートを活用すれば、訓練後に現場ごと・チームごとでフィードバックを集めやすくなります。項目は、行動の流れに沿って「初動」「避難」「点呼」「報告」の4ステップに分けると整理しやすく、改善点の抽出にも役立ちます。提出後に内容を集計・分析する仕組みも準備しておくと、組織全体で課題を共有しやすくなります。
デジタルツールを使った振り返り・記録の効率化
紙のアンケートや手書きメモだけでは、集計や分析に時間がかかり、せっかくの振り返りが形にならないことが懸念されます。
最近では、スマートフォンやタブレットを使った入力フォームの活用や、避難行動のログを自動的に取得できる仕組みもあります。たとえば「誰がいつ避難したか」「点呼がどれだけスムーズだったか」といった情報を可視化できれば、主観に頼らない具体的な改善が可能になります。
防災力を底上げするための日頃の工夫

地震に備える力は、訓練当日だけでなく、日々の備えや意識の積み重ねによって高まっていきます。避難ルートの確認や備蓄の整備、要配慮者への対応準備など、平時にできる工夫を習慣化することで、いざという時の行動が格段に変わります。
また、普段から使っているツールや設備を防災用途にも活かせるようにしておくと、緊急時の対応力がより強固になります。ここでは、職場・施設の防災力を底上げするために取り組みたい日常の工夫をご紹介します。
避難ルートの“実際の動線”を確認しておく
避難経路は図面上で確認して終わり、というケースも多いですが、いざという時に使えるかどうかは“実際に歩いてみる”ことでしかわかりません。障害物が置かれていないか、段差や狭い通路がないか、照明の有無や出口のわかりやすさなど、細かい確認が重要です。
月に一度などの頻度で、従業員自身が動線を実地で確認する機会をつくると、防災意識の維持にもつながります。
備蓄品・非常用品の配置を共有しておく
防災備蓄は整えていても、「どこにあるか知らない」「鍵がかかっていて使えない」といった声が起こりがちです。備蓄品の種類や設置場所を共有し、必要に応じてマップ化して掲示・配布することで、誰でもすぐにアクセスできる状態を整えましょう。
また、消耗品や使用期限のある備蓄については、定期的な入れ替えや在庫チェックも忘れずに行うことが大切です。
要配慮者支援を訓練の段階から組み込む
高齢者、障がいのある方、妊娠中の方など、災害時に特別な支援を必要とする“要配慮者”への対応は、日頃からの準備が欠かせません。避難時にどのような手助けが必要なのか、どの職員が対応するのかをあらかじめ決めておき、訓練時にもその手順を組み込んでおくことが重要です。
「サポートが必要な方を安全に誘導する」という視点を、全員が持てるような意識づけも必要です。
平時から使うツールを“有事の際にも使える”状態にしておく
連絡手段や位置情報ツールなど、日常業務で使っているツールが、実は災害時にも大いに役立ちます。たとえば、出社状況の把握や、従業員の居場所情報を取得できるサービスを使えば、点呼作業や安否確認がスムーズになります。また、事前に避難所や備蓄品の位置情報を登録しておけば、緊急時でも迷わず行動できます。
防災専用ツールを新たに導入するのではなく、“今あるものを活かす”視点が、防災の継続性を高めてくれます。

まとめ
地震を想定した避難訓練は、ただ実施するだけでなく、「目的を明確にする」「シナリオを練る」「マニュアルを整える」「振り返る」「日頃から備える」ことが大切です。日常の延長線上に防災を位置づけることで、いざという時の対応力は格段に高まります。
本記事を参考に、職場や施設での防災体制を今一度見直してみてはいかがでしょうか。
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