オフィスや店舗、工場などの施設では、人やモノが日々さまざまな場所を移動しています。しかし、「どこからどこへ移動しているのか」「どの場所に人が集中しているのか」「無駄な移動が発生していないか」といった実態を、目視だけで正確に把握することは簡単ではありません。
そこで注目されているのが「動線分析」です。動線分析によって人やモノの移動経路をデータとして可視化すれば、これまで感覚や経験に頼っていたレイアウト設計やスペース配置などを、客観的なデータに基づいて検討しやすくなります。
さらに近年では、カメラやセンサー、ビーコン、GPS、スマートフォンなどを活用して位置情報を取得する技術も普及しており、継続的な動線データの収集・分析が行いやすくなっています。本記事では、動線分析とはどのようなものなのか、動線分析によって分かることや人流分析との違い、メリット、分析方法、具体的な活用シーンについてわかりやすく解説します。

動線分析とは?

動線分析とは、人やモノが空間の中をどのように移動しているのかを可視化し、その移動経路や行動パターンを分析する手法です。店舗であれば顧客がどの商品棚を経由してレジへ向かったのか、工場であれば作業員がどのように設備間を移動しているのか、オフィスであれば従業員が執務エリアや会議室などをどのように利用しているのかを分析できます。
動線分析の目的は、単に人の移動を把握することではありません。取得したデータから空間や業務の課題を発見し、レイアウト改善や業務効率化、安全性向上などにつなげることが重要です。
動線分析で分かること
動線分析では、主に「どこからどこへ移動したのか」という移動経路を把握できます。たとえば、オフィスの執務エリアから会議室、店舗の入口から商品棚、工場の作業場所から資材置き場といった、エリア間の移動を可視化できます。さらに、使用するシステムや取得する位置情報データによっては、特定エリアへの移動回数や滞在時間、時間帯による移動パターンの違いなどを分析することも可能です。こうした情報を組み合わせることで、「多くの人が通過している場所」「長時間滞在する場所」「あまり利用されていない場所」「人の移動が集中している場所」など、空間の特徴を把握しやすくなります。
たとえば、オフィスに新しいコミュニケーションスペースを設置したにもかかわらず、そのエリアへの移動が少なく、滞在時間も短ければ、場所や設備、運用方法などに改善の余地がある可能性があります。反対に、想定以上に人が集まっているエリアが見つかれば、その場所にどのような特徴があるのかを分析し、他のスペースづくりに生かすこともできます。
つまり動線分析は、人やモノの「移動」を可視化するだけではなく、空間が実際にどのように使われているのかを理解するための手段でもあるのです。
動線分析と人流分析・利用率分析の違い
動線分析と似た言葉に「人流分析」や「利用率分析」があります。それぞれ重なる部分もありますが、分析する視点が異なります。動線分析では、主に人やモノが「どのように移動したのか」という経路や行動パターンに着目します。A地点からB地点、さらにC地点へ移動するといった空間内での動きを捉えることが中心です。
一方、人流分析は、人の流れや人数、特定エリアへの流入・流出など、人の動きをより広い視点から分析する際に使われます。商業施設や駅、観光地、イベント会場などで、時間帯ごとの人数や混雑状況を把握するといった用途が代表的です。利用率分析は、会議室や座席、特定エリアなどが「どの程度使われているのか」を分析するものです。オフィスであれば、会議室の稼働率や執務エリアの利用率などが該当します。
重要なのは、これらを別々に考えるのではなく、必要に応じて組み合わせることです。たとえば「会議室の利用率が高い」という情報に、「どの執務エリアから会議室へ移動しているのか」という動線データを組み合わせれば、会議室の利用状況だけでなく、配置そのものが適切なのかを検討する材料にもなります。
動線分析を行う3つのメリット

動線分析を行うことで、人やモノの動きを客観的なデータとして捉えられます。感覚や経験だけでは発見しにくかった課題を可視化し、業務効率化やレイアウト改善、安全性向上などにつなげられることが大きなメリットです。
業務効率化や生産性向上につながる
動線分析の代表的なメリットが、業務における無駄な移動を発見できることです。たとえば工場で、作業員が一つの工程を終えるたびに離れた場所へ部品を取りに行っている場合、その移動時間は一回あたりではわずかでも、何度も繰り返されることで大きな時間的ロスになる可能性があります。
動線データから頻繁に発生する移動や長い移動経路を把握し、設備や資材の配置を変更すれば、移動時間を削減できる可能性があります。これはオフィスでも同様です。複合機や収納スペース、会議室、Web会議ブースなど、従業員が頻繁に利用する設備への移動距離が長ければ、日常的に小さな時間のロスが積み重なります。
動線分析によって実際の行動を可視化することで、「想定していた働き方」と「実際の働き方」の違いを発見し、より効率的な環境づくりにつなげることができます。
レイアウトやスペース配置を最適化できる
施設を設計するときには、利用者の行動を想定してレイアウトを決めます。しかし、設計時に想定した動線と実際の動線が一致するとは限りません。たとえば店舗で、来店客に見てもらいたい商品エリアを多くの人が通過していなければ、売り場の配置や導線を見直す必要があるかもしれません。
オフィスでも、コミュニケーション活性化を目的として交流スペースを設置したものの、従業員の普段の移動経路から離れていれば、期待したほど利用されない可能性があります。こうした課題に対して動線分析を行えば、「どこを人が通っているのか」「どの場所に立ち寄っているのか」という実態をデータで確認できます。
実際の行動データを基準としてレイアウトを見直すことで、人が自然に利用しやすいスペース配置を検討できるようになります。
混雑の解消や安全性向上につながる
動線分析は、人が集中する場所や動線が交差する場所を把握する用途にも活用できます。たとえば店舗でレジ周辺に人が集中していれば、通路を広げたり、レジの配置を変更したりすることで混雑を緩和できる可能性があります。
工場や物流施設では、安全性という観点も重要です。作業員の歩行ルートとフォークリフトなどの車両が頻繁に通るルートが交差していれば、接触事故などのリスクにつながります。動線を可視化して危険な交差ポイントを発見できれば、人と車両のルートを分離するなど、安全性を考慮したレイアウトを検討できます。
このように動線分析は、効率性だけでなく、利用者が安全で快適に移動できる空間づくりにも役立つ手法です。

動線分析を行う主な方法

動線分析を行うには、分析対象となる人やモノの位置情報を取得する必要があります。代表的な方法には、カメラによる映像解析、センサーやビーコン、GPSやスマートフォンなどがあり、分析する場所や目的に応じて選択することが重要です。
カメラ・映像を活用した動線分析
店舗や商業施設などで利用される方法の一つが、カメラの映像を活用した動線分析です。施設内に設置したカメラの映像から、人がどの方向へ移動したのか、どこに立ち寄ったのかなどを分析します。
近年ではAIによる映像解析技術も発達しており、人の検出や追跡などを自動化する方法もあります。店舗であれば、顧客がどの売り場を通ったのか、特定の商品棚の前でどの程度滞在したのかなどを分析することで、店舗レイアウトや商品配置を見直す材料にできます。
一方、カメラを利用する際には、設置位置や撮影範囲に加え、プライバシーへの配慮やデータの管理方法などについて十分な検討が必要です。
センサーやビーコンを活用した動線分析
屋内での位置情報取得に活用されているのが、センサーやビーコンです。
ビーコンはBluetooth Low Energy(BLE)などを利用して信号を発信する小型端末で、スマートフォンなどと組み合わせることで、屋内における位置の把握に利用できます。GPSは屋外では有効ですが、建物内では衛星からの電波を受信しにくくなることがあります。そのため、オフィスや工場、倉庫などの屋内環境では、ビーコンを利用した位置情報システムが選択肢となります。
ビーコンなどから得られる位置情報を継続的に蓄積すれば、「どのエリアにいたのか」「どのエリア間を移動したのか」といった行動ログを分析することができます。特にオフィスでは、従業員の居場所の把握だけでなく、蓄積されたデータをレイアウト改善やスペース活用の検討材料として利用することも考えられます。
GPS・スマートフォンなど位置情報を活用した動線分析
屋外や広いエリアの動線分析では、GPSやスマートフォンの位置情報を利用する方法があります。GPSから取得した緯度・経度などの位置情報を時系列で記録することで、どのようなルートを移動したのかを分析できます。たとえば、建設現場や物流、営業活動など、屋外を含む広範囲の移動を分析する際に活用できます。
また、位置情報と時間のデータを組み合わせれば、移動経路だけでなく、特定地点での滞在時間や移動速度なども分析可能です。スマートフォンを活用する方法は、専用の大型機器を常に携帯する必要がない点も特徴です。
ただし、GPS、ビーコン、カメラなど、それぞれの技術には得意な環境や取得できるデータの粒度が異なります。「何を分析したいのか」「どの程度の位置精度が必要なのか」を明確にしたうえで、適切な方法を選択することが重要です。
動線分析の活用シーンと分析するときのポイント

動線分析は店舗や工場だけでなく、物流施設やオフィスなど幅広い場所で活用できます。ただし、動線を可視化すること自体を目的にするのではなく、課題を明確にしたうえでデータを取得し、具体的な改善施策につなげることが重要です。
店舗・商業施設|顧客行動や売り場を改善する
店舗や商業施設における動線分析では、顧客がどのように施設内を回遊しているのかを把握し、売り場や商品配置の改善につなげます。たとえば、入口からレジまでの移動経路を分析した結果、多くの顧客が通るエリアとほとんど通らないエリアが明確になれば、商品配置を見直す判断材料になります。
また、移動経路だけでなく滞在時間を組み合わせれば、「人は通るものの立ち止まらない場所」と「多くの顧客が長く滞在する場所」を区別できます。さらに時間帯別に分析すれば、特定の時間に混雑しやすいエリアを把握し、スタッフ配置やレジ運用などの改善につなげることも考えられます。
重要なのは、単純な通行人数だけで判断しないことです。購買データや時間帯、滞在時間など複数の情報と組み合わせることで、より具体的な顧客行動を理解しやすくなります。
工場・物流施設|作業効率や安全性を改善する
工場や物流施設では、作業員やモノ、車両などの動線を分析することで、作業効率や安全性の改善につなげることができます。たとえば、作業員が部品や工具を取りに行くために何度も長距離を往復していることが分かれば、資材置き場や設備配置を変更することで移動距離を短縮できる可能性があります。
物流施設でも、商品の入荷から保管、ピッキング、出荷までの動線を分析することで、工程間の無駄な移動やボトルネックを発見する手がかりになります。さらに、人とフォークリフトなどの動線を比較することで、両者が頻繁に交差する危険な場所を特定することも可能です。
工場や物流施設では「最短距離にすること」だけが最適な動線とは限りません。作業効率と安全性の両方を考慮しながら、人、モノ、設備の配置を検討することが大切です。
オフィス|働き方やレイアウトを改善する
ハイブリッドワークやフリーアドレスを導入する企業が増えるなか、オフィスでも位置情報や動線データを活用した分析が考えられます。従来の固定席型オフィスでは、部署ごとに座る場所がおおむね決まっていました。しかし、フリーアドレスでは日によって利用する座席やエリアが変化するため、管理者が目視だけで実際の利用状況を把握することは難しくなります。
そこで位置情報を活用すれば、執務エリア、会議室、Web会議ブース、コミュニケーションスペースなどがどのように利用され、人がエリア間をどう移動しているのかを分析する材料を得られます。たとえば、執務エリアと会議室の往来が多いにもかかわらず両者が離れていれば、レイアウト変更時に配置を再検討する余地があります。また、コミュニケーションスペースへの立ち寄りが少なければ、場所や設備、運用方法を見直すきっかけになります。
一方で、動線だけを見て「利用されていないから不要」と判断するのは適切ではありません。集中ブースのように、利用人数は少なくても一人あたりの滞在時間が長く、特定の働き方に重要なスペースもあります。そのためオフィスの分析では、動線データに加えて、出社率、エリア利用率、滞在時間、会議室稼働率などを組み合わせることがポイントです。たとえば「人通りは多いが滞在時間が短いエリア」「人通りは少ないものの長時間利用されるエリア」「複数の部署から人が集まるエリア」などに分類すると、空間が果たしている役割をより具体的に考察できます。
こうした分析を継続的に行えば、レイアウト変更前後で人の行動がどのように変化したのかを比較し、施策の効果検証にも活用できます。オフィスにおける動線分析では、従業員を監視するためではなく、働きやすい環境づくりやスペースの有効活用といった目的を明確にすることも重要です。位置情報を取得する目的や利用範囲について従業員へ説明し、プライバシーに配慮した運用を行う必要があります。

まとめ
動線分析とは、人やモノが「どこからどこへ、どのように移動しているのか」を可視化し、移動経路や行動パターンを分析する手法です。動線をデータとして把握することで、業務における無駄な移動の発見、レイアウトやスペース配置の最適化、混雑の緩和、安全性の向上など、さまざまな改善につなげることができます。
動線分析の方法も一つではありません。カメラ・映像解析、センサーやビーコン、GPS、スマートフォンなどがあり、店舗、工場、物流施設、オフィスといった分析対象や目的によって適切な技術は異なります。なかでもオフィスでは、働き方の多様化によって「実際にオフィスがどのように使われているのか」を把握する重要性が高まっています。
位置情報から得られる動線だけを見るのではなく、滞在時間やエリア利用率、出社率、会議室稼働率などのデータと組み合わせれば、「どこが使われているか」だけではなく「従業員がどのようにオフィスを使っているか」をより具体的に把握できます。こうしたデータをレイアウト変更や設備配置、スペース運用などに反映し、その後の変化を再びデータで確認することで、継続的なオフィス改善につなげることが可能です。
動線分析を導入する際には、まず「何を改善するために分析するのか」という目的を明確にし、目的に適したデータ取得方法と分析指標を選ぶことから始めましょう。
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