病院や介護施設、工場、倉庫、オフィスなどでは、床の滑りや段差、身体機能の低下、設備の不備など、さまざまな要因によって転倒・転落が発生します。事故を防ぐには、危険箇所の改善や一人ひとりの危険度評価が重要ですが、すべての事故を完全に防げるとは限りません。
そのため、転倒転落予防と同時に、事故発生後の初動対応も整える必要があります。特に広い建物では、転倒した本人からSOS通知が届いても、具体的な発生場所が分からなければ、職員が現場を探すことになり、救助や介助の開始が遅れる可能性があります。
本記事では、転倒と転落の違い、主な転倒転落原因、危険度の考え方、予防の取り組み、事故発生時の対応について解説します。
さらに、BeacappHereを活用し、SOS通知と屋内位置情報を組み合わせて初動対応を支援する考え方も紹介します。厚生労働省のガイドラインでも、個別のアセスメント、事故の早期発見、迅速な初動対応、原因分析と再発防止が重視されています。

転倒・転落とは?基本的な意味と違い

転倒と転落はまとめて扱われることが多いものの、事故が起こる状況や必要な予防策は異なります。転倒は床や通路などでバランスを崩して倒れる事故、転落はベッドや階段、高所などから下へ落ちる事故です。
事故後の原因分析では両者を区別し、どこで、どのような動作中に発生したのかを整理する必要があります。
転倒と転落の違い
転倒とは、床や通路など、ほぼ同じ高さの場所で滑ったり、つまずいたり、バランスを崩したりして倒れることです。濡れた床で足を滑らせる、通路上の荷物につまずく、歩行中にふらついて倒れるケースなどが該当します。
一方、転落は、ベッド、階段、脚立、作業台など、高低差のある場所から落ちる事故です。特にベッドや階段からの転落は、高さがあるため大きなけがにつながりやすく、本人の身体状況に合わせたベッド柵や手すり、ナースコールの配置が重要です。
事故の型を区別することで、床面改善、手すり、柵、見守りなど、必要な対策を選びやすくなります。「転倒・転落」と一括りにするだけでなく、事故の状況を具体的に分類することが再発防止につながります。
転倒・転落が起こりやすい場所と場面
転倒・転落は、病室や居室だけでなく、廊下、トイレ、浴室、階段、出入口、工場、倉庫、バックヤードなど、日常的に人が移動する場所で起こります。
病院や介護施設では、ベッドから立ち上がるとき、車椅子へ移乗するとき、夜間にトイレへ向かうときなどに注意が必要です。本人が介助を呼ばずに動こうとした際や、寝起きで身体が十分に動かない場面でも事故が起こりやすくなります。
職場では、水、油、粉、洗剤などで床が滑りやすい状況や、コード、台車、資材が通路に置かれている状態が事故につながります。また、荷物で足元が見えない、時間に追われて急いでいるといった行動も危険を高めます。
転倒転落予防では、場所だけでなく、時間帯や作業内容、本人の行動も含めて確認することが重要です。
転倒・転落が重大事故につながる理由
転倒は低い位置で起こるため、軽い事故と思われがちです。しかし、倒れた際に床や設備へ身体を強くぶつけることで、骨折や頭部打撲などの大きなけがにつながる場合があります。
高齢者や身体機能が低下している人では、受傷後に歩行や日常生活へ影響が及び、活動量の低下を招く可能性もあります。けがが治った後も、転倒への恐怖から一人で移動できなくなり、生活の質が低下するケースも考えられます。
工場や倉庫などの労働現場では、休業、人員不足、作業計画の変更など、組織全体にも影響します。さらに、一人でいる場所や夜間に事故が起きると、発見や手当てが遅れ、被害が深刻化するおそれがあります。
軽微な事故やヒヤリ・ハットも放置せず、重大事故につながる兆候として収集・分析することが重要です。
転倒・転落の主な原因

転倒転落原因は、本人の不注意だけでは説明できません。筋力や認知機能などの人的要因、濡れた床や設備配置などの環境要因、見守り体制や情報共有などの組織要因が重なって発生します。
再発防止では、事故当事者だけに責任を求めず、設備、業務手順、人員体制、周囲の状況まで含めて分析することが大切です。
身体状態や行動に関する人的要因
人的要因には、筋力やバランス機能、視力、注意力、認知機能の低下などがあります。過去に転倒した経験がある人、歩行や立ち上がり、移乗に不安がある人は、状況に応じた見守りや環境調整が必要です。
また、発熱や疲労などで普段より動作が不安定なときや、服薬内容が変わったときにも危険度が変化する可能性があります。睡眠薬や鎮静薬などの影響により、ふらつきや眠気が生じるケースも考慮しなければなりません。
行動面では、急いで移動する、荷物で足元が見えない、一人で無理に立ち上がるといった行動が事故につながります。個人の能力だけを見るのではなく、普段の生活習慣や行動パターンを把握し、事故が起こりやすい場面を予測することが重要です。
床・設備・通路などの環境要因
環境要因には、水や油、洗剤、雨水などによる床の滑り、段差や凹凸、照明不足、通路上の障害物などがあります。床面に小さな段差があるだけでも、歩行が不安定な人にとっては大きな危険となります。
病室や居室では、ベッドの高さ、柵やナースコールの位置、家具の配置、車椅子の置き方も転倒・転落に影響します。必要なものが本人から遠い場所にあると、無理に手を伸ばしたり、一人で立ち上がったりする可能性があります。工場や倉庫では、資材や台車の仮置き、床面の破損、作業に適さない靴などにも注意が必要です。
転倒転落予防では、整理・整頓・清掃・清潔の4Sを徹底し、歩行経路から物を取り除くことが基本です。危険箇所を発見したら注意表示だけで済ませず、床面補修や配置変更など、根本的な改善を検討しましょう。
見守り・情報共有・運用に関する組織要因
利用者や従業員の転倒転落危険度が把握されていても、その情報が関係者に共有されなければ、適切な支援にはつながりません。
状態が変化したのに評価を更新していない、見守りが必要な時間帯に職員が足りない、SOS機器の操作や連絡先が周知されていないといった運用上の問題も事故原因になります。
また、設備点検や床面確認の担当者が曖昧な職場では、危険な状態が放置されがちです。事故やヒヤリ・ハットが報告されても、関係部署へ共有されず、同じ危険が繰り返されるケースもあります。
事故分析では、本人の行動だけでなく、職員配置、業務の集中、情報伝達、マニュアルの実効性まで確認しましょう。個人のミスとして処理せず、組織として改善できる仕組みを考えることが重要です。

転倒・転落危険度を把握する方法

効果的な転倒転落予防には、一律の対策ではなく、本人の状態、利用する場所、時間帯、行動パターンに応じた危険度評価が必要です。
転倒転落危険度は固定されたものではなく、入院・入所直後、体調や服薬の変化、手術後、担当業務の変更などによって変わります。評価を定期的に見直し、具体的な見守りや環境調整へつなげましょう。
転倒・転落リスクを個別にアセスメントする
個別アセスメントでは、過去の転倒・転落歴、歩行や立ち上がりの能力、筋力、バランス、視力、認知機能、体調などを確認します。
杖や歩行器、車椅子といった補助具が本人に合っているか、援助が必要なときに職員を呼べるか、SOS機器を操作できるかも重要な項目です。
介護施設では、本人や家族、ケアマネジャーなどから以前の生活環境や行動習慣を聞き取り、実際の居室配置や動線まで含めて評価します。点数を付けて高・中・低に分類するだけではなく、その人がどの場面で危険になりやすいかを具体化し、ベッド配置、介助方法、見守り頻度などの行動計画に反映させることが目的です。
場所・時間帯・行動パターンから危険度を判断する
転倒・転落の危険度は、個人の身体状態だけでなく、場所や時間帯によっても変わります。夜間や早朝は周囲の人が少なく、照明も限られるため、事故の発見が遅れる可能性があります。トイレ、浴室、階段、出入口、床面清掃後の通路、荷物搬送中の倉庫なども注意が必要です。
また、食事前後や排泄時に立ち上がろうとする、夕方になると落ち着かず移動するなど、本人特有の行動パターンが見られる場合があります。
事故記録やヒヤリ・ハットから時間帯別の行動傾向を分析すれば、重点的に見守る時間や改善すべき場所を特定しやすくなります。本人の危険度と、場所・時間帯の危険度を組み合わせて判断することが重要です。
状態変化のたびに再評価し情報共有する
転倒転落危険度の評価は、入院・入所時や配属時に一度行うだけでは不十分です。発熱、服薬変更、手術後、筋力低下、認知機能の変化、転倒発生後などを契機に再評価し、対策を更新する必要があります。
医療・介護現場では、看護師、介護職、医師、リハビリ職などが情報を共有し、それぞれの専門的な視点から対応を検討します。
工場や倉庫でも、安全管理者、現場責任者、作業担当者の間で、本人の状態と危険な作業場所を共有することが重要です。
口頭の申し送りだけでは情報が抜ける可能性があるため、共有システム、チェックシート、危険マップなどを使い、誰でも最新情報を確認できる状態を整えましょう。
転倒・転落予防の具体的な取り組み

転倒転落の取り組みでは、床や設備を整備するハード対策と、教育、見守り、情報共有などのソフト対策を組み合わせることが重要です。
「注意して歩く」と呼びかけるだけでは、同じ事故が繰り返される可能性があります。施設や職場全体で危険箇所と対象者を把握し、点検、改善、効果確認を継続する仕組みをつくりましょう。
床・通路・設備を安全な状態に保つ
環境面の転倒転落予防では、整理・整頓・清掃・清潔の4Sが基本です。歩行場所に資材やコードを放置せず、水、油、粉、洗剤などを発見したら速やかに取り除きます。
床の段差や凹凸、破損は放置せず、滑りやすい場所では防滑材や作業に適した履物も検討しましょう。階段やスロープには手すりを設け、照明や注意表示を見直します。
病室や居室では、本人に合ったベッドの高さ、柵、ナースコール、車椅子の配置を整えることが重要です。
また、危険な場所をマップにまとめて職員や従業員に共有すれば、日常の点検や新人教育にも活用できます。注意喚起だけで終わらせず、危険そのものを取り除くことを優先しましょう。
個人の状態に合わせて見守り・介助を行う
見守りや介助は、全員に同じ方法を適用するのではなく、個人の状態と危険な場面に合わせて設計します。
歩行が不安定な人には、排泄、入浴、移乗など危険度の高い場面で介助を行い、SOSボタンやナースコールを手の届く位置に置きます。操作が難しい場合は、離床センサーや見守り機器など別の方法も検討します。
ただし、事故を恐れて必要以上に行動を制限すると、筋力や生活意欲の低下につながるおそれがあります。介護施設は生活の場でもあるため、自立を支えることと安全を確保することのバランスが重要です。本人や家族ともリスクを共有し、納得できる支援方法を検討しましょう。
教育・ヒヤリハット共有・訓練を継続する
転倒転落予防を組織に定着させるには、設備改善だけでなく、職員や従業員への教育が必要です。新人研修に加えて、全職員を対象に転倒転落原因、危険箇所の確認方法、発生時の連絡手順などを定期的に共有しましょう。
また、事故には至らなかった「滑りそうになった」「台車と接触しそうになった」といったヒヤリ・ハットも貴重な情報です。
責任追及を目的とせず、報告しやすい環境をつくり、発生場所や時間帯、背景を一元的に分析します。夜間や人員の少ない時間を想定した駆けつけ訓練も有効です。
対策後は事故件数や報告内容を確認し、PDCAを回して危険マップや手順書を更新しましょう。

転倒・転落発生時に求められる初動対応

十分な予防策を講じても、転倒・転落を完全になくすことは困難です。そのため、事故が起きた際に、本人の安全確保、状況確認、関係者への連絡を速やかに行える体制が欠かせません。
初動対応では、SOSが発信された事実だけでなく、「誰が・いつ・どこで」事故に遭ったのかを把握し、迷わず現場へ向かえることが重要です。
本人の安全確認と関係者への連絡を行う
転倒・転落を発見した際は、各施設や職場の事故対応マニュアルに従い、本人の救命と安全確保を最優先にします。
意識や呼吸、受傷状況を確認し、無理に動かさず、看護職員や医療機関、救急への連絡が必要か判断します。医学的な判断は専門職へつなぎ、周囲に滑りや障害物などの危険が残っている場合は、二次事故を防ぐため速やかに対処します。同時に、現場責任者や上司へ報告し、発生時刻、発見時刻、場所、本人の状態、目撃情報を記録します。
事実と推測を分けて残しておくことで、その後の報告や原因分析を正確に行いやすくなります。
SOS通知だけでは発生場所が分からない場合がある
SOS通知や緊急呼び出しが届いても、通知内容に発生場所が含まれていなければ、職員は本人へ電話したり、複数の部屋やフロアを探したりしなければなりません。
本人が会話できない状態や、スマートフォンを操作できない状況では、場所の聞き取りも困難です。特に複数棟・複数フロアの病院、広い工場や倉庫、一人作業がある職場では、探索時間が初動対応の遅れにつながります。
そのため、SOS発信者の情報と直近の屋内位置を紐づけ、通知・位置情報・駆けつけ手順を一体で設計することが有効です。通知を受け取るだけでなく、どこへ誰が向かうのかまで決めておく必要があります。
事故記録を原因分析と再発防止につなげる
事故対応が終わった後は、発生場所、時間、直前の行動、本人の身体状態、床や設備の状況などを整理します。
見守り体制、職員数、作業の集中、情報共有の状況も確認し、本人の不注意だけで結論づけないことが重要です。同じ場所や時間帯で事故やヒヤリ・ハットが繰り返されていないかを照合すると、共通する危険要因を発見しやすくなります。
原因分析には、「なぜ」を繰り返して根本原因を探る方法や、当事者・設備・環境・周囲の人・手順といった複数の視点で整理する方法があります。
分析結果は、家具や設備の配置変更、見守り方法、勤務体制、教育内容の改善へ具体的に反映しましょう。
BeacappHereで転倒・転落時の対応を支援する方法

転倒・転落時の初動を速めるには、SOS通知に加えて、発信者の所在を確認できる仕組みが役立ちます。
BeacappHereは、ビーコンとスマートフォン、またはビーコンと受信機などを用いて、屋内の人やモノの所在地をマップ上に可視化するサービスです。緊急通知システムとの連携により、発生エリアの把握と駆けつけを支援できます。
転倒した人の屋内位置をリアルタイムに確認する
BeacappHereでは、建物内に設置したビーコンとスマートフォンを連動させる方法や、対象者がビーコンを持ち、施設内に受信機を設置する方法などによって位置情報を取得できます。
取得した情報はフロアマップ上に表示されるため、SOSを発信した人がいるフロアやエリアを確認する際の補助情報として活用できます。
広い病院や工場、倉庫では、発信者を探して複数の場所を回る時間の短縮につながります。また、近くにいる職員や対応可能な担当者の所在を確認し、より早く駆けつけてもらう運用も考えられます。
導入方式や検知エリアは、対象者の端末環境や施設構造に合わせた設計が必要です。
SOS・スタットコールと発生場所を連携する
Beacapp Here Hospitalと一斉通知システム「FASTMessage」の連携では、スタットコールが発信された際に、Beacapp Here Hospitalが取得したリアルタイム位置情報をFASTMessage上で共有する仕組みが構築されています。
これにより、緊急通知を受けた職員が発生場所を把握し、「どこへ向かえばよいか」を判断しやすくなります。
転倒や急変への対応では、通知を送るだけでなく、発信者、発生場所、連絡先、駆けつける担当者までを一連の流れとして設計することが重要です。
導入後は、定期的なテスト通知や駆けつけ訓練を行い、通知先や連絡ルートが実際に機能するかを確認しましょう。通信障害を想定した代替連絡手段も必要です。
位置情報ログを危険箇所の改善に活用する
BeacappHereは、現在地の表示に加えて、蓄積した検知ログを用いた行動の可視化にも対応しています。
事故記録と位置情報ログを組み合わせれば、同じ通路や共用部で転倒が繰り返されていないか、特定時間帯に人員配置が手薄になっていないかを振り返る材料になります。
また、訓練時にSOS発信から現場到着までの経路や所要時間を確認し、駆けつけルートや連絡体制を改善することも考えられます。
ただし、位置情報だけで転倒原因や受傷程度を判断することはできません。本人の状態、事故記録、現場確認、ヒヤリ・ハットなどと組み合わせ、継続的な再発防止へつなげることが重要です。

まとめ
転倒・転落は、筋力や認知機能などの身体要因だけでなく、濡れた床、段差、通路上の障害物、設備配置、見守り体制、情報共有不足といった複数の要因が重なって発生します。
転倒転落予防を進めるには、個人ごとの危険度評価、4Sをはじめとする環境整備、状態に応じた見守り、教育、ヒヤリ・ハット共有を組み合わせることが重要です。
一方、十分な対策を講じても、事故を完全になくせるとは限りません。事故発生時には、本人の安全を確認するとともに、誰が、どこで、いつ転倒・転落したのかを速やかに把握し、必要な職員や医療機関へつなぐ体制が求められます。
SOS通知が届いても発生場所が分からなければ、施設内を探す時間が発生します。BeacappHereのような屋内位置情報サービスを緊急通知と組み合わせれば、発信場所の把握を補助し、初動対応の迅速化につなげられます。
予防、早期発見、位置特定、救助・介助、原因分析、再発防止までを一連の仕組みとして設計することが、転倒・転落対策の実効性を高めるポイントです。
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