2026/10/16

労働時間の客観的把握は企業の義務?対象者や正しい管理方法を解説

働き方の多様化が進むなか、従業員の労働時間を正確に把握することは、適切な賃金計算や長時間労働の防止、健康管理のために欠かせません。2019年4月からは、企業に労働時間の状況を客観的に把握することが義務付けられています。

本記事では、労働基準法上の労働時間の考え方や対象者、厚生労働省のガイドラインに沿った把握方法、企業が取り組むべき管理体制についてわかりやすく解説します。

労働時間の客観的把握とは?

労働時間 長時間労働

労働時間の客観的把握とは、タイムカードやICカード、PCログなどの記録を用いて、従業員が実際に働いた時間を確認・管理することです。ここでは、労働基準法上の労働時間の範囲と、客観的な把握方法について解説します。

労働基準法上の「労働時間」とは

勤務時間として扱われるかどうかは、名称ではなく、使用者の指揮命令下に置かれていたかを基準に判断されます。明確な業務指示がある時間はもちろん、業務量や職場の状況から事実上働かざるを得なかった時間も、黙示の指示による労働として認められる場合があります。

そのため企業は、始業・終業時刻と休憩時間を適正に把握し、実労働時間を記録しなければなりません。さらに、時間外・休日・深夜労働に応じた割増賃金を支払う必要があります。実態に即した把握は、未払い残業を防ぐだけでなく、長時間労働の兆候を早期に捉え、従業員の健康を守るための基盤となります。

準備・待機・研修なども労働時間に含まれる場合がある

労働時間には、実際に業務を行っている時間だけでなく、使用者の指示や業務上の義務に基づく準備・後片付け、待機、研修なども含まれる場合があります。

例えば、制服への着替えや作業前の点検、業務終了後の清掃、指示があればすぐに対応しなければならない待機時間は、使用者の指揮命令下にあると判断されやすい時間です。また、参加が義務付けられた研修や、業務に必要として受講を指示された教育訓練も労働時間に該当します。

一方、参加が任意で、業務から完全に離れることができる活動は、労働時間に含まれません。企業は名称だけで判断せず、指示の有無や拘束の程度など、実態に即して確認する必要があります。

「客観的に把握する」とはどのようなことか

労働時間を「客観的に把握する」とは、従業員の自己申告だけに頼らず、使用者が始業・終業時刻を確認して記録することです。厚生労働省のガイドラインでは、使用者による現認、またはタイムカード、ICカード、PCの使用時間などの客観的な記録を基礎とした確認が原則とされています。

これらの記録を勤怠データと照合すれば、打刻漏れや申告との大きな差、未申告の時間外労働を発見しやすくなります。ただし、入退館時刻やPCの稼働時間が、そのまま労働時間になるとは限りません。差異がある場合は本人への確認や実態調査を行い、業務の指示や拘束状況を踏まえて適切に判断・修正することが重要となります。

労働時間の客観的把握が義務化された背景と対象者

勤怠管理

2019年4月の法改正により、長時間労働による健康障害を防ぐため、企業には労働時間の状況を客観的に把握することが義務付けられました。ここでは、義務化の背景や対象者、把握を怠った場合のリスクを解説します。

2019年4月から労働時間の状況把握が義務化

2019年4月に施行された改正労働安全衛生法により、事業者には従業員の「労働時間の状況」を客観的な方法で把握することが義務付けられました。

主な目的は、長時間労働者を把握し、必要に応じて医師による面接指導などの健康確保措置につなげることです。把握には、タイムカードやICカード、PCの使用時間などの記録を活用し、その記録を3年間保存する必要があります。

なお、この義務は適切な賃金計算だけを目的とするものではなく、過重労働による健康障害を防ぐための仕組みです。企業には、記録を集めるだけでなく、長時間労働の兆候を確認し、必要な対応を速やかに行える管理体制が求められます。

管理監督者や裁量労働制の対象者も把握が必要

管理監督者や裁量労働制の適用者も、労働安全衛生法に基づく「労働時間の状況」の把握対象です。管理監督者は労働基準法上の労働時間・休憩・休日に関する規制の一部が適用されず、裁量労働制では実労働時間にかかわらず、あらかじめ定めた時間を働いたものとみなします。

しかし、これらは健康管理のための状況把握を不要にする制度ではありません。企業は、タイムカードやICカード、PCの使用時間などを活用し、在社時間や業務状況を客観的に確認する必要があります。把握した結果、長時間労働が認められる場合は、本人への通知や医師による面接指導など、必要な健康確保措置につなげることが重要です。

把握義務を怠った場合に考えられるリスク

労働時間の状況把握義務を怠っただけで、直ちに労働基準法上の罰則が科されるとは限りません。しかし、実態を把握できず、時間外労働の上限超過、割増賃金の未払い、賃金台帳の不備などにつながれば、是正勧告や罰則、未払い賃金請求を受ける可能性があります。

また、長時間労働者を見落として面接指導などが遅れ、健康被害が発生すれば、安全配慮義務違反として損害賠償を求められるおそれもあります。それだけではなく、従業員の不満や離職、採用への悪影響、企業イメージの低下も否定できません。法令対応だけでなく、健康管理と労務トラブル防止の観点からも、正確な記録と定期的な確認体制を整えることがポイントです。

厚生労働省のガイドラインに沿った労働時間の把握方法

チェックリスト

厚生労働省のガイドラインでは、始業・終業時刻を使用者が確認し、客観的な記録に基づいて管理することを原則としています。ここでは、具体的な把握方法や自己申告制の条件、記録の保存について解説します。

使用者が始業・終業時刻を直接確認する

厚生労働省のガイドラインでは、使用者が労働者の始業・終業時刻を直接確認し、記録する方法が原則の一つとして示されています。ここでいう使用者には、実際に労働時間を管理する権限を委ねられた責任者も含まれます。出勤・退勤の状況を確認し、日ごとの時刻を正確に残すことで、記憶に頼った事後申告や記録漏れを防ぎやすくなります。特に、管理者と従業員が同じ場所で勤務する職場では運用しやすい方法です。

ただし、複数拠点や外出、テレワークなど、管理者が直接確認できない働き方には向きません。その場合は、タイムカードやPCログなどの客観的記録を組み合わせ、勤務実態を確認できる体制が必要です。

自タイムカード・ICカード・PCログを利用する

タイムカードやICカード、PCログは、始業・終業時刻を客観的に把握するための代表的な記録です。タイムカードは出退勤、ICカードは入退館、PCログはログイン・ログアウトや使用時間を記録でき、オフィス勤務だけでなくテレワークの実態確認にも活用できます。勤怠システムと連携すれば、集計を効率化し、打刻漏れや長時間労働の兆候も発見しやすくなります。

しかし、入館中に休憩している場合や、PCを起動したまま業務から離れている場合もあるため、記録時刻がそのまま労働時間になるとは限りません。勤怠申告と記録の差異を定期的に洗い出し、その原因を確認して勤怠データへ反映する運用まで整えることで、客観的な記録を実効性のある労働時間管理につなげられます。

自己申告制が認められる条件と必要な対応

客観的な方法による確認が難しく、自己申告制を採用する場合は、正確に申告できる環境を整えなければなりません。企業は、労働時間の考え方や申告方法について従業員と管理者へ十分に説明し、申告内容が実態と合っているかを確認します。PCの使用時間や入退館記録と申告時刻に大きな差がある場合は、本人への聞き取りや実態調査を行い、必要に応じて労働時間を補正します。

また、申告できる残業時間に上限を設けたり、残業削減を理由に過少申告を促したりしてはなりません。自己申告を形式的な入力作業で終わらせず、実態とのずれを拾い上げる仕組みとして機能させることが、制度を適正に運用する鍵となります。

労働時間に関する記録を適切に保存する

労働安全衛生規則では、客観的な方法などで把握した「労働時間の状況」の記録を作成し、3年間保存することが定められています。

一方、賃金台帳やタイムカードなどの労働関係書類は、労働基準法上の保存期間が原則5年に延長されていますが、経過措置として当分の間は3年です。保存対象には、始業・終業時刻、残業申請、自己申告書、PCログ、修正履歴などが含まれます。紙・電子のどちらでも保存できますが、紛失や改ざん、情報漏えいを防ぐため、閲覧権限やバックアップ、保存期限を明確にしましょう。

記録は保管するだけでなく、労務トラブルや監督署の調査時に、経緯を追って速やかに提示できる状態にしてこそ役割を果たします。

労働時間を正確に把握するために企業が取り組むこと

正確な労働時間管理には、制度やツールの導入だけでなく、実際の働き方との整合性を確認する運用が欠かせません。ここでは、記録の差異確認、テレワークへの対応、従業員への説明やプライバシーへの配慮について解説します。

現在の勤怠管理方法と実際の働き方を確認する

正確に把握するには、現在の勤怠管理が実際の働き方に対応しているか確認する必要があります。雇用形態、勤務制度、勤務地ごとに、誰が・いつ・どこで始業と終業を記録しているか整理しましょう。オフィス勤務に加え、テレワーク、外出、直行直帰、複数拠点での勤務、中抜けも確認対象です。

また、打刻前の準備や退勤後のメール対応、休憩中の業務など、記録に表れにくい時間がないか、管理者と従業員へ聞き取ります。同じ制度でも職種や部署によって働き方は異なります。見直しの出発点は、新しいツールの選定ではなく、現在の記録からこぼれている働き方を見つけることです。

勤怠記録と客観的記録の差異を定期的に確認する

申告時刻と、タイムカードやPCログなどの客観的記録を定期的に照合します。差異の原因には、打刻漏れや休憩時間のずれ、PCの消し忘れ、未申告の時間外労働などが考えられます。差があるからといって、直ちに勤怠記録が誤りとは限らないため、本人や上司へ確認し、指示の有無を踏まえて判断しましょう。業務を行っていた場合は勤怠記録を修正し、賃金計算へ反映します。

さらに、同じ部署や管理者のもとで差異が繰り返される場合は、業務量や残業申請ルールの見直しも必要です。差異は単なる記録ミスではなく、表面化していない働き方を知らせるサインとして読み取れます。

テレワーク・ハイブリッド勤務に対応したルールを整備する

テレワークやハイブリッド勤務では、管理者が勤務状況を直接確認しにくいため、始業・終業、休憩、中抜けの記録方法を明確にします。出社日と在宅勤務日で管理方法が異なると、記録漏れや集計ミスが起こりやすいため、同じ勤怠システムへ集約するとよいでしょう。

時間外労働の申請・承認手順や、終業後のメール・チャット対応の扱いも定めます。PCログやアクセス履歴は実態確認の補助資料として活用し、申告との差があれば本人へ確認しましょう。働く場所が変わっても、労働時間を判断する基準まで揺れない設計が、ハイブリッド勤務を安定させます。

従業員への説明とプライバシーへの配慮を行う

労働時間の客観的把握を始める際は、管理の目的や方法を従業員へ事前に説明します。タイムカード、PCログ、入退館記録、位置情報など、取得するデータの種類に加え、利用目的、保存期間、閲覧できる担当者を明示しましょう。情報は労働時間の確認や健康管理に必要な範囲へ限定し、目的外利用を避けます。

また、アクセス権限や削除時期を定め、漏えい・改ざんを防ぐ対策も必要です。導入後は従業員の不安や疑問を聞き、運用ルールへ反映します。透明な運用が、従業員の協力につながります。見える化するのは働き方であり、従業員を過度に監視することではありません。

位置情報を活用して勤務実態を見える化する方法

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勤怠記録だけでは、従業員がどの場所に、どの程度滞在していたかまで把握できません。ここでは、位置情報を勤怠データの補助資料として活用し、勤務実態の確認や労働時間管理の精度向上につなげる方法を紹介します。

勤怠記録だけでは勤務場所や滞在状況まで把握しにくい

勤怠記録で確認できるのは、主に始業・終業時刻や休憩時間です。フリーアドレスのオフィスや工場・倉庫では、従業員の所在や滞在時間まで把握しにくい場合があります。そのため、打刻後の外出や長時間の離席、拠点間の移動などは記録に表れません。同じ始業・終業時刻が記録されていても、勤務実態が同じとは限らないのです。位置情報ログを活用すれば、エリアごとの滞在状況を可視化し、勤怠記録とのずれを確認する補助資料にできます。

ただし、特定の場所にいた時間がそのまま労働時間になるわけではありません。勤怠が「何時から何時まで」を示すなら、位置情報は「その間どこにいたか」を補う材料になります。

Beacapp Hereで従業員の所在地や滞在状況を可視化する

Beacapp Hereは、ビーコンとスマートフォン等を使い、オフィスや工場など屋内にいる従業員の所在地をマップ上に表示するクラウドサービスです。蓄積されたログからエリアごとの滞在状況も確認でき、フリーアドレスでの在席確認や複数フロア・拠点の勤務実態把握に役立ちます。位置情報の公開範囲を管理者が設定できるため、目的に応じた公開制御も可能です。

ただし、位置情報だけで労働時間を確定せず、勤怠記録やPCログと照合する補助データとして扱います。点在する勤務の足跡を、検証できる情報へ変えることがBeacapp Hereの役割です。

勤怠データと位置情報を組み合わせて管理精度を高める

位置情報システムで取得したログを勤怠データと照合すると、打刻時刻と入退館や滞在状況のずれを確認できます。退勤打刻後も長時間滞在している、出社しているのに打刻がないといった状況を抽出すれば、打刻漏れや時間外労働の発見につながります。

ただし、特定の場所にいる時間のすべてが労働時間とは限りません。差異がある場合は、休憩、私用、端末の置き忘れなどを考慮し、本人への確認を経て勤怠記録を修正します。また、一定時間以上の差異のみを確認対象にすると、運用負担を抑えられます。時刻と場所を重ねて見ることで、労働時間管理の解像度は一段上がります。

まとめ

労働時間の客観的把握は、適正な賃金の支払いと、長時間労働による健康障害の防止に欠かせない企業の責務です。タイムカードやICカード、PCログなどを活用し、自己申告との差異があれば実態を確認して修正する必要があります。

また、管理監督者や裁量労働制の対象者も、健康管理上の把握対象です。多様な働き方に対応するには、ルールの周知とプライバシーへの配慮を行い、位置情報も補助データとして活用しながら、自社に合った継続的な管理体制を整えましょう。


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