工場で働く人々にとって、夏場の暑さは命に関わる深刻な課題です。特に締め切った空間や高温機器が多い現場では、熱中症のリスクが日常的に潜んでいます。こうしたリスクを軽減するには、空調設備や水分補給といった基本対策に加え、技術や制度を活用した取り組みが必要不可欠です。
本記事では、工場における熱中症対策を多角的に捉え、現場で実践できる方法をわかりやすく解説していきます。
熱中症はなぜ工場で起きやすいのか?

工場では、ほかの職場環境に比べて熱中症が起きやすい条件がいくつも重なっています。高温機器の使用や通気の悪さに加えて、安全装備や人員構成の変化も見逃せない要因です。
ここでは、工場ならではのリスク構造を3つの観点から整理します。
工場内の特殊な環境と気温上昇の相乗効果
工場は構造上、熱がこもりやすくなっている場合が多くあります。特に鉄鋼や自動車、食品加工など、高温機器を多く扱う現場では、室内の気温が外気よりも高くなることが珍しくありません。
さらに、夏場には日射や湿度の上昇も重なり、工場全体が“蒸し風呂”のような状態になってしまうこともあります。窓が少なく換気がしづらい建屋や、屋根の断熱性が低い場合はなおさらです。こうした特殊な環境が、作業員の体調に大きな負荷をかける要因となっています。
作業服・保護具がもたらす「熱のこもり」
安全を守るための作業服や保護具も、熱中症リスクを高める原因になります。長袖長ズボン、厚手のつなぎ、ヘルメット、安全靴などは、火傷や怪我を防ぐ上で欠かせませんが、通気性が悪く、身体に熱がこもりやすくなってしまいます。
また、防塵マスクや防音イヤーマフなどの着用が求められる環境では、呼吸や発汗のしにくさも加わり、熱がこもるだけでなく熱を逃がすことも難しくなります。作業中に強い疲労感や頭痛、めまいを感じても気付きにくい環境だからこそ、特に注意が必要です。
高齢化・外国人労働者の増加がもたらすリスク
近年、多くの工場では人手不足を補うために、シニア世代や外国人労働者の雇用が増加しています。この変化も、熱中症リスクに影響を与える重要な要素です。
高齢者は若年層に比べて体温調整機能が低下しやすく、暑さを感じにくいため、気づかぬうちに重症化するケースもあります。また、外国人労働者の中には、日本の高温多湿な気候や職場文化に慣れていない人も多く、水分補給や休憩のタイミングを逃しがちです。個人の体調や環境への適応度に配慮した対応が、これまで以上に求められています。
工場における熱中症対策の基本と設備整備
熱中症のリスクを抑えるには、作業者自身の注意だけでなく、職場環境そのものの整備が欠かせません。工場では気温や湿度を正確に把握し、熱がこもりにくい空間づくりを行うことが基本です。
ここでは、効果的な3つの対策について紹介します。
「WBGT指数」を使ったリスク把握と管理
工場での熱中症対策には、気温だけでなく湿度や輻射熱(ふくしゃねつ)を含めてリスクを判断する「WBGT指数(暑さ指数)」の活用が効果的です。これは、労働環境の暑熱リスクを数値で可視化できる指標であり、厚生労働省も活用を推奨しています。
WBGT値に応じて「休憩をとる」「作業を中断する」といった行動基準を事前に定めておくことで、主観に頼らないリスク管理が可能になります。ハンディタイプの測定器や固定式センサーなどを活用し、常に最新の環境情報を把握しておくことが重要です。
スポットクーラーやミストなど設備面での対策
空調設備の整備は、熱中症予防の最前線です。しかし工場では、大規模な空調が難しいケースも少なくありません。そのため、近年ではスポットクーラーやミストファンといった“局所的に冷やす”設備が注目されています。
作業台のすぐそばに設置できる機器であれば、冷却効果を効率的に届けることが可能です。さらに、大型扇風機とミストの併用により体感温度を数度下げることもできます。場所や工程に応じて、柔軟に設備を配置することが現実的かつ効果的な方法です。
給水ルール・塩分補給の徹底と自販機の工夫

熱中症を防ぐには、水分だけでなく塩分の補給も欠かせません。汗を大量にかく現場では、ただの水では体内のバランスが崩れてしまうこともあります。そのため、「塩分入りドリンク」「経口補水液」などを手軽に入手できる環境が必要です。
最近では、自販機に熱中症対策ドリンクだけをまとめた専用列を設けたり、飲料代を会社が補助したりする企業も増えています。また、「○時と○時に水分補給」といった明確な給水ルールを設けることで、作業員の自発的な対策を後押しすることができます。
熱中症対策の義務化と企業責任の高まり
2025年6月から施行される労働安全衛生規則の改正により、熱中症対策は企業の「努力義務」から「実質的な義務」へと位置づけが変わりました。これにより、企業はより明確な対策と管理体制の構築を求められています。ここでは、義務化のポイントと企業責任について見ていきましょう。
労働安全衛生法とガイドラインの強化
厚生労働省は、2025年6月に労働安全衛生規則を改正し、熱中症対策に関する管理体制の構築を企業に義務付けました。これにより、作業環境の温湿度の把握、リスクのある従業員の早期発見、適切な休憩場所(暑熱避難施設)の確保、対処手順の整備などが必要とされています。
また、現場管理者や作業者への情報共有・周知も明記されており、「知っていたけれど対応しなかった」では済まされない時代に突入しています。単なる設備の設置にとどまらず、企業全体での意識改革と実行が求められています。
万が一の事故で問われる「安全配慮義務違反」
法令に基づく対策を怠ったまま熱中症事故が発生した場合、企業は「安全配慮義務違反」として法的責任を問われる可能性があります。これは、労働者の命や健康を守るために必要な措置を講じなかったことに対する責任です。
たとえば、WBGT値が高いことを知りながら作業を継続させたり、休憩ルールを守らせなかった場合、重大な過失と判断されることも。損害賠償や企業イメージの毀損にもつながるため、リスクマネジメントの観点からも法令遵守は不可欠です。
監査・点検で見られるチェックポイントとは?
熱中症対策の義務化に伴い、労働基準監督署などによる監査や点検でも、対策の有無だけでなく「実際に運用されているか」がチェックされるようになりました。
特に見られやすいポイントは、「WBGT測定の有無」「休憩施設の整備状況」「従業員への周知と教育体制」「記録の有無」などです。これらが曖昧なままでは、形だけの対策とみなされ、是正指導や改善命令につながる恐れもあります。現場での実践と記録の“見える化”がますます重要となってきています。
テクノロジーで実現する熱中症対策の「見える化」
熱中症対策は、気温や湿度の管理にとどまりません。近年は、センサーやウェアラブル端末、ビーコンなどを用いた「見える化」によって、従業員の状態や行動をリアルタイムで把握する動きが広がっています。
ここでは、現場のリスクを把握し、早期対応を実現するためのテクノロジー活用例をご紹介します。
IoT温湿度センサーでリアルタイム環境モニタリング
温度や湿度の上昇にいち早く気づくには、センサーによるリアルタイムなモニタリングが効果的です。作業現場にIoT温湿度センサーを設置することで、常に環境データを取得し、危険な暑さになる前にアラートを出すことが可能になります。
工場の中でも特に熱がこもりやすい場所や空調の届きにくいエリアにセンサーを配置することで、エリアごとのリスク把握がより精密になります。取得したデータは、パソコンやスマートフォンで確認でき、現場管理者が即時に対処できる環境を整えることができます。
作業員のバイタルや行動を把握するウェアラブル機器
作業者自身の体調を把握するには、ウェアラブルデバイスの活用が有効です。心拍数や体温、活動量などをリアルタイムで測定し、異常値が検出された場合にはアラートを発信する仕組みを取り入れる企業が増えています。
とくに高温下での作業が長時間に及ぶ現場では、本人も気づかぬうちに体調が悪化することがあります。ウェアラブル機器を通じて、従業員一人ひとりの“いま”の状態を把握できれば、異常の早期発見・早期対応につながります。集めたデータは健康管理や労務管理にも活用可能です。
ビーコンで「休憩取得」を自動可視化
2025年の法改正を受け、企業には「従業員がきちんと休憩を取っているか」を把握・証明する責任が生じました。そこで注目されているのが、位置情報を活用したBeacapp Hereのような仕組みです。
作業員に名刺サイズのビーコンを持たせることで、誰がいつ、指定されたクーリングシェルターで休憩したかを自動で記録・集計できます。個人・組織単位での可視化やBI連携による分析、サイネージ表示も可能で、管理者や現場リーダーがその場で状況を把握できます。負荷なく現場に浸透できるのも魅力です。

今すぐ始めたい、現場目線の熱中症対策
どれだけ優れた熱中症対策も、現場で運用されなければ意味がありません。作業員が納得し、自ら行動に移せるような「現場目線の工夫」が、実効性のある対策のカギになります。ここでは、すぐに取り組める具体策と、現場に根づかせるための工夫を紹介します。
現場の声を取り入れた対策が定着のカギ
熱中症対策が続かない理由のひとつに、「現場に合っていない」「一方的に押しつけられている」という不満があります。たとえば、形式的なマニュアルや一律のルールでは、作業の実情と噛み合わず、かえって反発を招くこともあります。
だからこそ、現場の声を拾い、業務内容や工程ごとに調整された対策が必要です。作業員との対話を通じて、「どこが暑いのか」「どのタイミングで休憩が取りにくいのか」といった具体的な課題を可視化することで、対策の精度も納得感も大きく向上します。
教育・研修で意識を高める仕組みづくり
熱中症対策の基本は、一人ひとりが「気づく力」を持つことです。そのためには、定期的な教育や研修の機会を設け、知識と意識の底上げを図ることが欠かせません。
特に新入社員や外国人労働者、派遣スタッフなどは、工場特有の暑さやリスクに慣れていない場合が多いため、わかりやすく多言語対応も含めた研修コンテンツが求められます。最近では、eラーニングや動画教材など、柔軟に学べるツールを導入する企業も増えています。
記録する・見える化する」ことで予防文化を育てる
日々の取り組みを継続するには、「なんとなくの対策」ではなく、行動を“見える化”し、チームで共有する文化を育てることが大切です。たとえば、毎日の休憩取得状況や暑熱リスクの可視化、アラートの記録などを蓄積し、週ごと・月ごとに振り返るだけでも改善のヒントが得られます。
数値やデータで示すことで、熱中症対策の成果を実感しやすくなり、従業員の意識も徐々に変化していきます。「記録する=守っている」という安心感も、現場の定着に効果的です。
まとめ
工場における熱中症対策は、従業員の命を守ると同時に、企業の社会的責任や生産性の維持にも関わる重要な取り組みです。基本的な設備整備に加え、テクノロジーや可視化の力を活用すれば、より実効性の高い対策が可能になります。
現場の声を活かした継続的な改善と、法令遵守に向けた仕組みづくりで、安全・安心な職場をつくっていきましょう。
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