新型コロナウイルス感染症の拡大により働き方に変化が起き、リモートワークが普及しました。しかし感染が落ち着いたことを受け、従来のオフィス勤務に回帰する動きが出ています。
働き方改革によりリモートワークが注目されている中、なぜリモートワークを廃止・制限する企業が増えているのでしょうか?
この記事では、企業がリモートワークを廃止・制限する理由や、リモートワーク廃止による影響について解説します。
リモートワークを廃止する企業は増加している
新型コロナウイルスの感染拡大をきっかけに、国内外でリモートワークが普及しました。しかし感染が落ち着いてきたことから、「フルリモートワーク」を廃止する企業や、リモートワーク自体を見直す企業が増えているのをご存じでしょうか。
ここでは、海外企業の事例と、日本企業の事例をご紹介します。(※2024年1月現在)
海外企業でリモートワーク廃止が増加
アメリカでは、金融機関を中心に、出社なしの「フルリモートワーク」を廃止し、オフィスへ出社回帰する企業が増えています。アメリカの主要5銘柄であるGAFAMの現在の状況を確認してみましょう。
【グーグル】
最低週3日のオフィス勤務を義務付け。出勤率は業績評価に影響。IDカードにより出勤率を追跡。
【アップル】
週3日以上のオフィス勤務を義務付け。バッジの記録で出勤率を監視し、出勤条件を満たさない場合は厳しい警告を与える。
【メタ・プラットフォームズ(旧:フェイスブック)】
週の大半はオフィス勤務するよう義務付け。出社とリモートワークに関して細かいルールがある。管理のために、バッジの記録をトラッキングしている。
【アマゾン】
週3日以上のオフィス勤務を義務付け。週3日のオフィス勤務を果たさない社員は、管理職の裁量で事実上解雇が可能。
【マイクロソフト】
他社のようなリモートワークに関する義務付けなどは確認できず。
ほかには、マグニフィセント・セブンのテスラは最低週40時間のオフィス勤務を求めています。
国内企業でもリモートワーク廃止が活発に
日本でも、海外の企業と同様に、リモートワークを廃止または縮小する企業が増えています。
公益財団法人日本生産性本部の「第13回 働く人の意識に関する調査」によれば、リモートワーク実施率は2020年5月の31.5%から2023年7月には15.5%まで低下しています。
実際に、ホンダ(本田技研工業)とGMOインターネットグループは原則的に週5日出社になり、リモートワークは廃止されました。
また、楽天グループは原則週4日出社となり、リモートワークを縮小してハイブリッドワークになっています。
参考:公益財団法人日本生産性本部の「第13回 働く人の意識に関する調査」
企業がリモートワークを廃止するのはなぜなのか?
国内外の企業がリモートワークを廃止することには、主に下記のことが理由として考えられます。
- 感染症対策としての暫定措置だった
- コミュニケーション不足を解消する必要がある
- 人事評価をしやすくするため
- 生産性低下の防止
それぞれの理由について、解説します。
理由1: 感染症対策としての暫定措置であった
リモートワークは新型コロナウイルス感染症対策として暫定的な措置であり、それを取りやめたことでリモートワークが廃止になったことが理由の1つとして考えられます。
日本では、新型コロナウイルスが当初2類相当(結核やMERS(中東呼吸器症候群)と同等)でした。緊急事態宣言のもとで不要不急の外出の自粛が呼びかけられ、混雑を避けるため、企業は暫定的にオフィス勤務からリモートワークに切り替える企業が多かったのです。
しかし、2023年5月に新型コロナウイルスは5類感染症となり、感染拡大も落ち着いたことから、再び新型コロナウイルス感染拡大前の状態に戻そうという動きが出ています。
参考:新型コロナウイルス感染症の5類感染症移行後の対応について 厚生労働省
理由2: コミュニケーション不足の解消
リモートワークは、オフィス勤務に比べてコミュニケーション不足になりやすいことから、その解消のために企業が出社回帰を推進している可能性があります。
2020年8月に厚生労働省が公表した「テレワークを巡る現状について」によれば、リモートワークには社内での気軽な相談・報告が難しく、コミュニケーションが不足しやすいデメリットがあると指摘されています。
このような課題の解消のために、出社回帰が進められているとも考えられます。
参考:
第1回「これからのテレワークでの働き方に関する検討会」資料
テレワークを巡る現状について 厚生労働省
理由3: 人事評価をしやすくするため
リモートワークでは、従業員の勤務態度の評価が難しくなるため、人事評価の公正性を保つためにオフィス勤務に戻していることも原因の1つです。
たとえば、リモートワークではコミュニケーションの質や頻度が落ちることから、仕事の成果が出る前の「プロセス評価」がしづらくなります。また、実際に、きちんと稼働しているのかの把握も難しいケースもあるかもしれません。
このように人事評価を適正に行いづらいことが課題となり、出社回帰につながっていると考えられます。
理由4: 生産性低下の防止
リモートワークは通勤時間がなくなることから、ワークライフバランスが整った職場環境を実現しやすくなります。これは、子育てや介護、体調不良などさまざまな事情で通勤が難しい従業員の多様性を受け入れられる大きな魅力といえます。
一方で、隣にいるような素早い情報共有が行いづらい、従業員ごとに異なる仕事環境が異なり、通信速度が遅い、職務に集中できる環境がないなどにより生産性が下がることを懸念する声もあります。
内閣官房・経済産業省が2021年に発表した「コロナ禍の経済への影響に関する基礎データ」によれば、オフィス勤務と在宅勤務の生産性に関して「在宅勤務の方が生産性が低い」と回答した割合は、労働者は82.0%で、企業は92.3%でした。
このアンケート結果はあくまで一つの視点から見た結果ですが、生産性に関する懸念が起因となって出社回帰が推し進められるケースもあることが読み取れます。
参考:コロナ禍の経済への影響に関する基礎データ 内閣官房・経済産業省
リモートワーク廃止による影響
企業がリモートワークを廃止することで、リモートワークで生じる懸念点などが解消されるメリットがあります。一方で、リモートワークを廃止することで出てくるネガティブな影響もあります。
ここでは、リモートワーク廃止によるさまざまな影響について解説します。
ワークライフバランスを取るのが難しい
リモートワークの廃止は、ワークライフバランスの実現を難しくさせます。
先にもご紹介した2020年の厚生労働省の資料「テレワークを巡る現状について」では、リモートワークの効果として、通勤時間がなくなり時間の有効活用ができるというものが挙げられていました。
ほかにも、「無駄な会議が減って時間外労働を削減できた」「育児や介護との両立がしやすくなった」といったメリットも挙げられるなど、リモートワークの導入で、ワークライフバランスが向上したことが伺えます。
そのためリモートワークを廃止すれば、通勤時間を含めた労働に関わる実質的な時間が長くなり、ワークライフバランスの維持が難しくなるケースが考えられます。
退職者増加の懸念
リモートワークを全面的に廃止すれば、退職者が増加する可能性があります。
リモートワークは、先に触れたように実質的な労働時間の削減というメリットだけでなく、以下のような理由からストレスの軽減にも効果があるという指摘もあります。
- 通勤からの解放
- 時間の有効活用がしやすい
- 自由な服装で好きな場所で業務ができる
- ワークライフバランスが維持しやすい
自律的に業務に取り組める人、さまざまな事情を抱えている人などにとっては魅力的な働き方といえるのがリモートワークです。
リモートワークの廃止は、リモートワークにメリットを感じている従業員の離職につながる可能性があると考えられるでしょう。
リモートワークで失敗する企業の特徴とは?
リモートワークをうまく導入している企業がある一方で、うまく導入がすすまず、失敗してしまう企業もあります。
リモートワークの導入に失敗する企業には下記のような特徴があります。
- リモートワークの環境整備ができていない
- 業務管理に関する工夫が少ない
- セキュリティ対策を怠っていた
それぞれの特徴について解説します。
リモートワークの環境整備ができていない
リモートワークに適した環境整備が構築できていない場合、リモートワークの導入は失敗しやすくなります。
リモートワークの成功には、以下のような環境を整え従業員に共有していくことが不可欠です。
- 業務に適したスペックのパソコンの支給
- Web会議ツールの導入
- ビジネスチャットツールの導入
- 勤怠管理ツールの導入
- セキュリティソフトの導入
- リモートワークに関するルールの設定 など
リモートワークに関するルールとは、コアタイム、出退勤の連絡方法、評価方法などが代表的です。また、光熱費・通信費の一部負担として「リモートワーク手当」を支給する企業も多くあります。
これらがしっかり整備できていないと、業務がうまく進められずに失敗してしまう可能性が高まってしまうため、注意が必要です。
業務管理に関する工夫が少ない
リモートワークでは、管理者が従業員の勤務状況や業務の進捗などを直接見ることができません。
そのため、勤怠管理ツールやタスク管理ツール、トラッキングなどを導入して、勤怠状況や業務状況などを客観的に把握できるようにすることが成功の秘訣です。
その際に注意が必要なのが、過度な監視や行動制限です。これは従業員との信頼関係にヒビが入り業務に対するモチベーション低下にもつながります。ある程度の裁量を従業員に付与し信頼することも大切です。
さまざまな最新のツールを活用・工夫して、上手に業務管理を進めましょう。
セキュリティ対策を怠っていた
リモートワークは、業務情報が社外にある状況になるため、セキュリティ上の脅威が高まります。
リモートワークをする社員に対して、しっかりとしたセキュリティ対策をしないまま導入してしまうと、情報漏洩、マルウェアに感染などのリスクが生じます。
万が一情報漏洩が起こってしまうと会社の信用も落としてしまうため、しっかりとした対策が必須といえるのです。リモートワークを導入する際に、対応すべきセキュリティ対策を紹介します。
人的な面
リモートワークのセキュリティガイドラインや情報管理ルールを策定し、それを研修などで従業員に周知する。
技術的な面
リモートワークに適した端末を企業が用意して従業員に貸与する。その上で、データを暗号化する、ウィルス対策ソフトを導入する、暗号化通信が可能な回線を使用するなど。
リモートワークを廃止する前に検討すべきポイント
リモートワークはワークライフバランスを実現し、多様な人材を活用しやすい働き方です。リモートワークを廃止して出社回帰をする前に、次のポイントを検討してみましょう。
- ハイブリッドワークで様子を見る
- コミュニケーションツールの見直し
- オフィス環境の整備
それぞれについて詳しく確認していきましょう。
その1: ハイブリッドワークで様子を見る
リモートワークを廃止するかどうかを決める際には、従業員のモチベーションが低下しないよう慎重に判断をすることが大切です。
リモートワークを廃止する前に、リモートワークとオフィス勤務を組み合わせた「ハイブリッドワーク」を導入して様子を見てみることをおすすめします。
ハイブリッドワークを導入して従業員の反応や業務状況を見ることで、オフィス勤務とリモートワークそれぞれのメリットデメリットを、判断できます。その結果をふまえてから、リモートワークを廃止するか、ハイブリッドワークとしてリモートワークを継続するかを判断しても遅くはありません。
その2: コミュニケーションツールの見直し
リモートワークによりコミュニケーション不足が起こっているなら、コミュニケーションツールを見直してみましょう。
リモートワークのコミュニケーションは、非対面のテキストを中心としたものになることが多く、気軽な相談・報告が難しい傾向にあります。「意思疎通のしやすいビデオ通話ができるWeb会議ツール」「メールのようにかしこまる必要のないチャットツール」など、新しいコミュニケーションツールを導入することで、コミュニケーション不足を解消できる可能性が高まるでしょう。
またタスク管理ツールがあれば、業務の進捗が遅れている従業員に対して声かけやサポートがしやすくなるでしょう。
その3:オフィス環境の整備
リモートワークやハイブリッドワークを導入している場合でも、従業員がリモートだけでなく、自ら出社したくなり、意思疎通をしながら業務をすすめられるようなオフィス環境を整備する対策は非常に有効です。
- 社員が固定席を持たず、好きな「居場所」を選んで働ける「フリーアドレス」スタイルの導入
- リフレッシュルームの整備
- 100円以下の実費だけで飲めるコーヒーやお菓子の導入 など
フリーアドレスを実施した場合、「誰がどこにいるか」・「会議室やデスクなどの予約状況」などが分からないという不安の声を聞くことがあります。
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リモートワークを上手に活用していこう
新型コロナウイルス感染症の拡大によりリモートワークが普及しましたが、感染が落ち着いたことを受けて出社回帰をする企業が増えています。
その背景には、コミュニケーション不足や勤務状況の把握が難しいといった懸念点があると考えられます。
しかしながら、それらの課題は新しいコミュニケーションツールや環境整備などによって対応可能なため、ハイブリッドワークも含めた多様な働き方を検討してみましょう。
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